緊急 流産手術

昨日の朝から妻の具合が良くなかった。

「ちょっと出血してて、お腹が痛いの」
「痛みがひどいようなら、病院に行って診てもらえば？」
「うん。我慢できないようだったら、行ってみる」

ちょっと心配だったが、私は支度を済ませて、会社へ向かった。

夕方、妻から
「ちょっと心配だったから、病院に行ってきた」
とメールがあった。病院で診てもらったんだから、心配はないか・・。

帰宅すると妻は横になっていた。
「大丈夫？」
「耐えられない痛みじゃないよ。痛み止めをだそうか？って
　言われたけど、貰ってこなかった。貰えばよかったかなぁ」

ちょっと痛そうだけど、なんとか大丈夫なようだ。
稽留流産は多少の出血と腹部の痛みはあるそうなのだが
手術まであと5日あるので妻の体が心配だ。

夜中に目が覚めた。私の横で妻がお腹の痛みで苦しんでいた。
「大丈夫かい？」
「うん・・大丈夫・・・」
それから妻は眠れなかったらしい。
私は不覚にも眠りにおちてしまった。

翌朝、妻からいつもの時間に起こされた。
「お腹の痛みは大丈夫？ちゃんと眠れた？」
「痛みがひどくなっている。あれから痛くて眠れなかったよ」

心の中で妻にわびた。
ごめんね。寝ちゃって。ちゃんとみてあげられなくて。

朝食を済ませた後
「ちょっと耐えられない痛みになってきたから、病院に行って
　痛み止めをもらってくるよ」
と言って妻は先に家を出た。

私も支度を済ませて、会社へ向かった。
会社の最寄駅に着いて、ふと携帯を見ると着信と伝言とメールが。
通勤中は携帯をカバンに入れているので気づかなかった。

ちょっと嫌な予感が・・・

妻からのメールには
「処置をしてもらって、病院にいます。多分、手術は夕方になります。
　また連絡します」

そうか。やっぱり。
あんなに痛がっていたもんな。

私はすぐ電話して
「大丈夫？」
「うん。今日手術したほうがいいということで、主治医の先生が
　手配をしてくれて、手術することになったよ。今はまだ病院だけど
　一度お家に帰ってからまた行かなくちゃ・・・」
妻の声は沈んでいた。そうだろうな。まだ心の準備も出来ていないだろうに。

私は出社後、会社の上司と仲間に早引きすることを伝えた。
午前中は会議があり、それが終わるともうお昼だった。
携帯に着信がないか確認すると、妻からメールが来ていた。
「夕方の予定が２時に変更になりました」

私は慌てて、会社の上司に午後休を取るお願いをした。
事情によっては明日も休むかもしれないことも伝えた。
上司には妻が流産したことを報告していたので、快く承諾してくれた。

帰宅すると妻は布団に寝ながら、友人と電話をしていた。
思ったより明るかったのでほっとした。
妻の大学時代からの親友との電話で少し気持ちが和んだのかもしれない。

妻から
「術前処置がめちゃくちゃ痛かった」
と聞かされた。検診時に先生からこういう処置をやりますよと説明は
受けていたが、そんなに痛いものだとは思っていなかった。かわいそうに。

それから病院へ。
午後からの外来診察がなかったので、がらんとした待合室でその時を待った。
そして看護士さんから呼ばれて、妻は手術室に向かった。
私はとりあえず一旦帰宅して、手術後に迎えに行くことになった。
手術後は3時間ほど病院で安静にして、それから退院となるからだ。

自宅に帰って時計を見ながら、とにかく無事に手術が終わってくれることを祈った。
もうすぐ手術が始まるなぁ、もう手術は終わったかな、まだ麻酔が効いてるのかなぁ
とあれこれ考えても時間がなかなか過ぎないから、ちょっと家を掃除して
妻を気持ちよく迎えてあげようと思い、家事をこなしていたら、電話が鳴った。

「もう迎えに来てもらっていいって」
「大丈夫だった？手術は無事に終わった？」
「うん。大丈夫だよ」

電話の向こうの妻は落ち着いた感じで話していた。
よかった。無事に終わって。

帰宅してから、妻に手術のことを聞いた。
麻酔をしてからは意識があるようでないような感じだったのでほとんど覚えていないそうだ。
眠くなりますよと言われて、意識がなくなって、気がついたらもう手術は終わっていたらしい。

「麻酔をする前に看護師さんに目隠ししますか？と聞かれたから、はいって答えたら
　目をガーゼで覆ってくれたんだけど、それがぐっしょりになっちゃって・・・」

その言葉が私の心に残っている。

私たち夫婦のはじめての妊娠はこのようにして幕を閉じた。
明日から新たな一歩を踏み出そう。
妻の術後の経過が順調なことを祈りながら。